噛む馬はしまいまで噛む



「慧、かき氷食べないのか?」
「キィンってするからやだ」
「キィン?頭が?」
「おくち」
「慧、ちょっとあーんして」

「虫歯だな」
「おくちのなかにむしはいません」
「いますいます。奥歯に虫歯菌がいます」
「じゃあ、しょうどくえきのむ」
「意味なし。歯医者へレッツゴー」
「やだぁぁぁぁぁぁっ」

チュゥイイイイイイン、ウィィン………!

「くさい、うるさい!」
「はーい、我慢。あ、すいません、予約していた一色です」
「あの、保護者の方は?」
「車停めてます。これ、カードと保険証」
「は、はぁ」

「一色慧さん、中にお入りください」
「よし、行くぞ、慧」
「やだ」
「よっこらせっと」
「やだやだ、だんこきょひ!もくひけんをこうしする!」
「意味分かってないだろ。サスペンスドラマの影響か。あ、こらドアから手を離せ!」
「やだー!」
「鯉のぼりみたいになるな!俺が抱えてるこの胴を離したらお前落ちるぞ、落ちたいのか?」
「やだ!」
「じゃあ手を離しなさい!」
「それもやだー!」
「仕方ない、実力行使」
「やだったらやだーっ!」

がぶ。

「いっでええええええ!」
「あんたたち、何してるの!」
「母さん、慧に耳噛まれたー!」
「ああ、血出てるじゃない、これで押さえときなさい」
「…………ごめん、ね?」
「…………大人しく治療受けるか?」
「……………ぃ」
「聴こえないなぁ」
「………はい」
「よし、じゃあ行くぞ」

「あの、病院に行った方が………」
「や、大丈夫です。それよりも慧また暴れ出したら堪らないんで、早く治療を」


「おかえりなさい、先生何て?」
「噛みちぎられなくてよかったですねぇって笑顔で言われたよ。痕は残るけど、聴覚に支障はないし。それよりも母さん、俺また親御さんは?って聞かれたんだけど。7歳の子どもを一人で病院に行かせるのはどうかと思うよ」
「仕方ないでしょ、慧の病院と重なっちゃったんだから。大丈夫でしょ、あんた計算できるし大人並みに喋れるし」
「おかえりなさーい」
「慧、お前のせいで…………いや、いい。いいか、慧。何でもかんでも噛んじゃ駄目だからな?鉛筆もクッションも机も箸も歯ブラシもオハジキもノートも服も、あー、あとなんだ?まぁとにかくガジガジ噛んじゃ駄目だぞ。勿論耳もだ」
「…………むぅ。わかった」
「爪も駄目!」