冬薔薇の棘を身に纏え
序章 弐 「あぁ、俺、。今、どこで待ってんの?」 晃樹と再度連絡を取って、待ち合わせ場所に赴いた。 GWの最終日は、車も人も多く、映画館の前にいるはずの晃樹の姿が見つからない。 「え?向かいのクレープ屋?」 携帯越しの誘導には道を挟んだ向こう側に視線をやった。 そこに、クレープを片手にジャンプして、精一杯のアピールをしている友人の姿。 それに苦笑し、軽く手を挙げて反応をかえす。 それにもやはり三倍のリアクションで返ったきた。 は信号が変わるのを待って、横断歩道の前で立ち止まった。 右から運送屋のトラックが来ているのを視覚で認識したとき。 地面が近づいた。 訳も分からず見た足元に、黒い靄が絡みつく。 禍々しい妖気を放つそれは。 それは、玄関先で殺した筈の。 の、式。 前にのめった体が地面にあたるのが先か、横から来るトラックにはねられるのが先か。 そんな思考は衝撃と共に全て吹っ飛び、答えは出なかった。 橘は過去の記憶を思い出す香り。 この香りは母の好んだ香り。 香りに誘われた夢がえぐった、過去の傷。 父に疎まれ、母を殺して、外の世界を知った者。 父に使われ、母を奪われ、籠の中の王となった者。 まるで神の戯れに使われたような、子供達。 しかし、しかし。 玩ぶ神あらば、救う神あり。 理に従い、冥府に降る魂が、気まぐれに―――否、これも運命か。 拾われて世界を渡る。 哀れな幼子。 瞬きにも満たぬ、一生を終える。 これは神の温情。 新たな生を君に与えよう。 思うがままに、生きてみよ。 |
序章完結 2009/3/28 移動 |
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