はやすぎだよ、バカ





【会者定離】

イヤな予感がしてたんだ。
だから、電話した。
約束の時間は30分くらいしか過ぎてなかったし、俺なんかもっと遅れたことがある。
なのに、電話したんだ。

誰かの悲鳴と同時に、ブレーキ音。
クレープが手から滑り落ちて、地べたにクリームをぶちまけた。

吹っ飛ばされたは地面を転がって、ガードレールに当たって止まる。

すぐにパトカーと救急車が来た。
呆然と突っ立っていた俺は、慌てて担架に追いすがった。

止める救急隊員に友達です!と叫んで、俺は救急車に乗り込んだ。
連絡先とか、いろいろ聞かれたけど、あんまり覚えてない。

の指につけられた血圧計は、最初からドラマみたいな一定音を鳴らしていた。

即死、だった。
傍目には大きな怪我はないように見えたけど、所謂、『打ち所が悪かった』らしい。


の葬式にはいろんな大人と、学校代表で来た担任と生徒会長と学級委員長が来ていた。

前の人たちの真似をしなさいと後ろから姉ちゃんにつつかれた。

桶の水を掬って、左手、右手の順に洗う。
左手に水を受けて、それで口を漱ぐ。
渡されていた懐紙で口を拭く。

全然見たことのない形式のお葬式で、が神道の一家だったことをいまさらに思い出した。
あいつは俺には何も言わなかったから。

斎主とか言う人が席に着くのをぼんやりと眺め、のお父さんとくんが席に着いたあと、俺や姉ちゃんも席に着いた。
俺は袖を通して一ヶ月ばかりの制服のひざをぎゅっと握り締めて、皺になった。

それからはみんなの真似をして礼をしていればよくて、分からなくなっても姉ちゃんが知ってるみたいでいろいろ助けてもらった。

タマグシホウテンとかいうヤツで、枝が渡されて祭壇の前に並んだ。
持ち方も礼も全部決まりがあるらしくて、ぼんやりとした思考のまま姉ちゃんの真似をした。

の遺影が飾られた祭壇の下の台にその枝を置く。
遺影は中学の卒業アルバムの写真を引き伸ばしたものだった。
やっぱりちっとも笑ってなくて、睨み付けるような強い瞳と目が合った。



翌日の葬儀祭では音楽が奏でられたり、祝詞が読み上げられたりしたけど、いつも好奇心たっぷりな俺なのに相変わらずぼんやりと流していた。

の棺の中に花を入れる段階になって、俺は一輪の大きな白い百合を耳元に置く。
の顔には漫画みたいに安らかな表情も何もなくて、硬く強張っていた。
その表情が昔の表情にそっくりで。

ああ、お前は死んでたんだなって。

死んだ顔していたは、俺の横では生きている顔になって。
でも今は俺がそばにいるのに、ぜんぜん表情は変わらない。
当たり前だよな。

が死んで初めて涙がぼろぼろ零れた。

まだ普通のおせち食ってないだろ。
映画だって見たことないって言うから一緒に行こうって決めたんじゃないか。
まだ高校は入ったばっかだぞ。
授業だってやっと慣れてきたばかりなのにおまえがいないと中間考査やばいじゃん。
おまえ、まだ、まだ。

「・・・・・・はやすぎだよ、バカ」

ポツリとこぼした言葉を最後に俺は姉ちゃんに背中を押されて席に戻った。
出棺が済んでも、俺はずっと泣きじゃくっていた。

ずっと。

ずっと。